労災の問題点 N労基署の対応について
質問および抗議書 被災労働者、Iさん(下記*)の労災打ち切りについて
 ○○労基署長および担当者殿
署長  ○○ ○○ 殿
担当  ○○ ○○ 殿

芝大門クリニック・医師 渡辺譲二

甲 芝大門クリ二ック・医師 渡辺譲二
乙 ○○労基署長および担当
丙 患者(被災労働者) Iさん(*)

(*) ○○ ○○

傷病名 腰椎椎間板ヘルニア

1) 経過
Iさん(丙)は当院(甲)を22年初診された。従来通っていた他院から転院し、当院が担当となり、1、2週に一度の通院、治療を継続してきた。
この間(22年6月から25年11月)、○○労基署長および担当(乙)が甲に対しもとめた診断書・意見書および連絡、またそれに対する甲からの回答・提出文書の機会は、下記経過の内4回(@からC)であった。

平成22 (2010)年
初診年月日 22年 6月 28日

平成23 (2011)年
@2011年春 4号診断書
A2011年 9月 20日 回答(診断書)

平成24 (2012)年
B2月13日春 4号診断書
C7月13日 回答(診断書)

平成25 (2013)年
無し

このうち最終であるC(平成24年7月13日) の、労基署(乙)からの症状照会(質問)に対する回答(診断書)には、甲からの質問を附記した。乙の質問文章にみられる労災に対する考え方が、法令や従来の政府・厚労省見解(国会での回答など)と異なったので、質問したものであった。しかし、それに対する乙からの返事・連絡がないまま約1年が経過した。
平成25年(2013)年、この年は年初の診断書(年金4号)請求もないまま、8月からの労災「打ち切り」が、突然通告された。
担当者(乙)から、ご本人(丙)への打ち切りの電話通知の際に、判断根拠は、@24年7月の甲からの診断書(症状照会に対する回答)と、A労災診療記録(通院、治療記録)の2つであると説明された。なお、乙は甲に対し、診療録(カルテ内容、診療記録)の開示を求めていないので、Aは診療日・治療項目などの事務的な記録のことである。

2)前提: 労基署は、医療担当者(主治医)に充分な説明をする責任がある。
労働関係法規、労災保険法の主旨から、労災保険の医療を実際に担当する医療機関に対して、労基署が、相互に充分な理解・協力関係を保つべく努力することは、柱となる重要な仕事である。
厚労省、県労働局、労基署からの各配布文書にも、「この記載内容や詳細についてご不明の点がありましたら、最寄りの都道府県労働局または労働基準監督署にお問い合わせください」、などと、相互協力関係について配慮した姿勢を示している。

3)労災保険うちきりの条件・手続きは、以下である。
1、期間の長さではない
2、症状の慢性化(慢性期に入った、急性期を脱した)ではない。
3、「これ以上の医療の効果が望めない、あるいは医療の中止により悪化のおそれがあるとは認められない」場合、
労基署長による終了の判断に際しては、
@主治医の意見が中心・基本である。
A主治医が、治癒(症状固定)と認めない場合、「局医協議会」の意見を聞く。
Bその二者の意見が異なる場合、意見の一致が図られるように努力をする、ことが原則である。
(衆院社会労働委員会における労働基準局長の発言
平成2年4月24日 衆議院社会労働委員会、労働省労働基準局長、野崎和昭、発言)

4)今回のケースでは、「治癒(症状固定)判断」手続きの不備が明白である。
@1年前(平成24年7月)の診断書では、乙から症状固定(終了)判断をもとめられているが、甲は理由も附記し、「否」と回答した。また、従来または通常の他労基署の書類のような、「現在「否」の場合に、終了予定年月日をもとめる質問」はなかった。
A主治医(甲)からの質問文書を、乙は無視・黙殺してきた。
B平成25年度は、春先に他のほとんどの労災患者について求める診断書も、無かった。「打ち切り」通知直前までも照会・問い合わせはなかった。主治医は終了(症状固定)かどうかの意見をもとめられてもおらず、双方の見解の相違、以前の段階であった。
C本人面談も約1年も前(24年7月)のことであった。
D「一年前の主治医診断書を判断根拠とした」は、その診断書では、甲は労災終了を否定しているので、あり得ない。労基署長が、主治医見解と異なる判断をしたならば、その取り扱い手続きがあったはずであるが、連絡もなかった上、説明において言及もされていない。
E仮に24年7月の診断書をもって判断したとしても、昨年7月以降一年間継続された事実は、矛盾する。当面継続するという判断はどのようになされたのか、その継続された労災保険は1年経過した今頃、新たに何を根拠として終了と判断できたのか、などが不明である。
Fよって、今回の「打ち切り」は、3)に記した根拠・手続きにまったく準拠しない、極めて不適切な決定であった。


5) 抗議と質問
24年7月の当方からの質問に何の応答もないこと、および今回の打ち切り通告は、その判断根拠、それに至る手続きにおいて、著しく不適切であると考え、抗議し、以下の質問をいたします。

1、平成24年7月の当方(甲)からの質問(乙、署長宛)に対しての回答はないのでしょうか。なぜでしょうか。この件を、担当者、課長、署長各レベルで、どう取り扱われたのでしょうか。
 当方が述べた論点に全面的に同じ意見として賛成したのでしょうか(当方との見解の相違があるかどうかをただしているので、無回答の場合は是認とみなしうるとの趣旨を書きました)。あるいは、無視または読まずに認識もしていなかったのでしょうか。

2、今回の「打ち切り」に際しては、その根拠が不明であり、また本来とるべき手続き(法的にも、慣習的にも)がほとんどなされていません。なぜですか、どう考えるのでしょうか。
「打ち切り」決定についての、乙において記録されている、各段階の日時(時系列)と内容を示されたい。

3、事実経過他、上記の 1)2)3)4) について、修正、異論、反論がある場合、その理由、根拠などと合わせお示しください。

6) 附記 
お忙しいとは思いますが、極めて重要なことなので、できるだけ早期の返答をもとめます。回答形式は、文書にてお願いします。電話・口頭などでは、こちらにその時間的余裕がない、記録が残らず不正確になるなどのためです。なお、この件については、回答がない場合、回答内容が不十分である場合に、患者・被災労働者名を伏せて、全経過を公開(紙誌、Web)する予定もあります。
本件の重大性は、個別の患者・被災労働者の労災が打ち切られたということにとどまるものではなく、実際に日常的に労災患者を担当する医療機関・医師と、労基署との信頼関係・相互協力関係、そのあり方を巡る問題という点です。当該被災労働者のプライバシーも守らねばならないので、どの段階でもその個人名・企業名などは伏せます。しかし、当方(医師・渡辺)は発信者としての責任を有し、労基署名、労基署長・担当者氏名には、公の責任も持つ立場なので、公開すべきであると考えております。

平成 25年 11月 13日

〒105-0012
所在地 東京都 港区芝大門 1-16-10 土木田ビル2F
名称 芝大門クリニック
診断医氏名 渡辺譲二
電話 03-6435-6930


参考 24年7月診断書と質問書
診断書

 氏名  ○ ○
 生年月日 
 傷病名 腰椎椎間板ヘルニア

1、 最近6ヶ月の治療内容
低出力レーザ光治療(腰背側正中、右外側上前棘、右膝内側)
ハリ・マッサージ治療、クスリ(ノイロビタン)、療養生活指導

2、24年1月とくらべた症状の改善点について

 略


3、現時点をもって症状固定としてよいか
 経過・現状から「症状固定」でも「治癒」でもなく、引き続き、医療を必要とすると判断します。

4 否の場合 今後の治療方針および期待できる医療効果について




5 その他
「署長、担当者への質問」
以下は、今回の質問回答1-4への補遺であり、同時に署長・担当者への質問でもあります。
当方は、少なくない件数の労災医療も担当しております。担当される労基署員との文書や面接によるやりとりにおいて、ともに協力して患者(被災者)の症状改善・復職を目指す姿勢・志を共感できることもありますが、他方今回のように質問の前文や質問文そのものに、理解や姿勢について疑問を感じるようなことがあります。厚労省・労基署の各種文書において、質問・疑念は細かいことでも、個別労基署に問い合わせるようにとの記載がありました。当然ながら労災医療担当者に対しては、充分な回答が得られるものと期待しております。
下記@-Bについては、もしかしたら署長・担当者との見解の相違があるかも知れないと考えております。個別項目についての意見を文書(署長・担当者の氏名つき)にてできるだか速やかにご回答お願いします。個別について、同意されるか、異なるならなぜ、どのように、その根拠(法的他)についてご教示ください。なお、このような質問は他労基署にも寄せたことがありますが、回答を得ておらず、著しく落胆いたしました。
もし今回、回答が無い場合は、このような「その他・付記」ではなく、別立てで、正規の「質問書」をお送りすることになります。他の労災医療担当者や、労基署、患者も常々強く疑問・関心をもっているテーマなので、限定された範囲(患者個人名は出さない)ながら「公開」の可能性もあることをお含みください。
お忙しいこととはおもいますか、よろしくお願いします。

@ 「慢性」について。 
質問3に「慢性化の状態にあることがうかがえます」とありますが、医学・治療の認識について当方および医学一般常識との齟齬があります。疾患によって多少は異なりますが、受傷から数日〜数週間以内を「急性」、その後は「慢性期」です。本例でも、初診時にすでに数年を経ているので、「慢性」と把握しております。

A 「慢性」でも、治癒可能。
質問者は、「慢性」「一進一退をくりかえし」と、「もう治らない」状態であるかのように言われてますが、それは誤解・認識不足かとおもいます。
医学の中での「慢性疾患」医療は、その大半は、治癒を目指しており、その発展によりますます、治療成績は向上しています。また、ほぼあらゆる慢性疾患はその治療過程では、むしろ改善へと切り替わる時期に、症状(部位、時間、程度)の変動があります。
なお、本例でも、2-3月にご本人の尊父の重態・逝去があり、遠隔地への往復・葬儀など身体的負荷・心理的ショックが大きく、一時的症状悪化はありましたが、それでも半年の期間での改善は明らかに進んだものと見られます。
つまり、いまだ治癒に至らない治療期間が、数週間〜数年に延びたとしても、そのことだけで「症状固定、医療の必要なし」という判断は、妥当性を欠いており、結果として治るはずの患者を見捨て、その持てる力をムダにすることになります。

B トータル的判断と言葉じり。
当方が担当してから3回の診断書を記載しておりますが、「一進一退を繰り返し」まして「長期に停滞していて改善の見込みがない」などと述べたことはなく、変動はありつつ(当然のこと)、改善は緩やかにすすんでいることをお伝えしてきました。「痛みがある」「痛みがつよい」などの表現は、その程度を充分に捉えることは困難です。その言葉じりだけをとらえて、恣意的に判断することは、患者(被災者)の症状改善・治癒・復職を目的とする立場からは不十分・不正確になりがちです。
当方は、症状やその改善をできるだけ理解できるようにつとめつつ、上で述べたように、個別に言葉では正確に伝わらないことを鑑み、全体的判断として「改善が進んでいる」「さらに改善を進めて、治癒・復職をめざせる」などと判断しております。記載の文言の一部だけを材料に、他者が判断できる・する、なら、主治医としての判断を求めることは、同じ目的(復職をめざす、労災保険の立場)を持つ立場としては疑問視されかねません。


以上


平成 24年 7月 13日

〒105-0012
所在地 東京都 港区芝大門 1-16-10 土木田ビル2F
名称 芝大門クリニック
診断医氏名 渡辺譲二
電話 03-6435-6930